Secret Lover's Night 【連載版】

「王子、ちゃんと言った方がいいよ?」
「いや…ええんや。ええねん」
「いいことねーだろ?ウジウジしてんなよ、男のくせにさ」

バシンと背中を叩かれるも、やはり言葉は出なくて。再び俯きかけた晴人の前に、白く小さな手が伸びて来る。


「はる…泣いたらイヤ。ちさが悪いの?ごめんなさい」


伸ばされた千彩の手は、小刻みに震えていて。その手を取り、晴人は震える声で訴えた。


「行く…な。行くな、千彩。俺はお前を放したくない…」


その言葉に、慌てて千彩が駆け寄って来る。ペタペタと、聞き慣れた足音をさせて。


「はる…ちさほかすの?」


不安げに晴人を見つめる千彩は、今にも泣き出しそうで。ギュッと抱き寄せると、そのままペタリとくっついた。

「ほかさへん…言うてるやろ」
「じゃあ何でそんなお別れみたいに言うん?」
「何でって…お前お兄様と一緒に行くんちゃうん…か?」
「何で?ちさ行った方がいい?」
「いや、せやから…」
「イヤ。ちさ行かない。ちさはると一緒におりたい。イヤ!わぁぁん」

声を上げて泣き出した千彩を、ギュッと抱きしめる。放したくない…と、強く、強く。

けれど、「行きたくない!」「はいそうですか」で済むほど、世の中は単純には作られていなくて。現に目の前の吉村の目は、困惑して完全に泳いでしまっている。