灰色ブランコ




三人目。美しい女性。

彼女は、僕の初恋のひとだった。

とある夏の暑い日、公園の脇の道を綺麗な女のひとが通っていた。このあたりで見かけたことのない、不思議な雰囲気をまとうひとだった。

僕はそのときしていたサッカーのことも忘れ、ぼーっと彼女に見惚れていた。彼女は、紙袋を両手で抱え、淡い茶色の髪を靡かせながら歩いていく。

すると、何かに躓いたのか、彼女がバランスを崩して紙袋を落とした。ばらばらと、中から赤くて丸いものがこぼれていく。僕は何も考えずに走り出した。彼女の元に駆け寄り、こぼれ落ちたたくさんのりんごを両手一杯に拾った。間近で見る彼女は本当に綺麗で、僕は、こんな綺麗なひとが世の中にいるなんて、と思った。真っ白なワンピースが夏の太陽に照らされて眩しかった。

「ありがとう」と柔らかく微笑んで彼女はお礼を言った。声まで綺麗なひとだった。きっと僕は真っ赤になっていたと思う。日焼けしていた肌のおかげでバレずに済んだけど。僕は照れと恥ずかしさで少しどもりながら「どういたしまして」と言った。彼女はまた微笑んで、遊んで薄汚れた僕の手にりんごをひとつ乗せたんだ。「お礼にひとつあげる」。彼女の言葉は僕の頭の中でしばらくの間反響していた。夏の太陽のせいでもう十分暑いのに、僕の顔はそれ以上に(多分沸騰寸前までいっていたと思う)熱くなっていた。

「じゃあね」と言った彼女の後姿が曲がり角に消えて見えなくなるまで、僕は彼女を見送った。


夏の日差しより暑くて一瞬の、僕の初恋だ。