もう出なくては間に合わない。僕は腕時計に目をやってから両親にその旨を告げた。
「まったくもう、たまに帰ってきたと思ったらこれなんだから」
呆れたように母が言う。口調は不機嫌を表しているが、表情は柔らかい。
「次はどこに行くんだ?」
父が問う。僕はジャケットを羽織ながら答えた。
「名古屋の方。新しい遺跡が発見されたから、それについて博士の話を聞いて来るんだよ」
「そうか、気をつけてな」
父の表情もまた、柔らかい。
「うん、行ってきます」
僕達の間にかつてのわだかまりはない。自然に溢れた笑顔で、話ができた。



