灰色ブランコ




好きなものや苦手なもの。ひとはそう簡単には変わることができない。僕は、いつだって"僕"と繋がっている。

振り返れば、僕の歩いてきた道が見える。でこぼこ、じぐざぐ。歪な道だ。お世辞にも、まっすぐに歩いてきたとは言えない。しかし、その道がまっすぐである人間なんて、この世のどこにも存在しないだろう。その道を一目で見渡すことは難しい。それでも少しずつ辿って行けば、いつかの自分に必ず出会える。

昨日と今日、今日と明日を繋ぐのはいつだって自分だってことに、僕は長い間気が付いていなかったんだ。


理由は、わからなかった。僕の目から一粒の涙がこぼれた。


「……ありがとう」

目の前に居るかつての自分の目をしっかりと見つめたまま呟いた。それはまるで独り言のようだった。

生意気そうな目を釣り上げた少年は照れくさそうにへへっと笑って霧になった。霧はしばらくそこに漂ったあと、風に煽られたようにふわりと浮いた。

紺色の空に吸い込まれていく霧を見送る。



しんと静まり返る公園の中で、灰色のブランコの音だけが、キィキィとひそやかに響いていた。