僕の中で三人の回想が終わるのを待ってから、目の前の僕は口を開いた。
「きっと忘れてたんだろうと思ってさ」
生意気そうな目を釣り上げて言う。
忘れていた。その通りだ。僕は、忘れていた。ここ何年も、一度も思い出すことはなかった。目の前のことに追われ、"今"を楽しもうと意気込み、溺れ、流れに乗るのが精一杯で、あのころのことなんて考えもしなかった。
僕は急に恥ずかしくなった。自分の存在を忘れるなと、目の前の自分に責められているような気分になった。
「たとえ小奇麗に着色された思い出だとしても、自分の思い出だろ、手放すなよ」
外見はかつての自分でも、中身はまるで違うと思った。きっと僕は、昔も今も、こんなことは言えない。
「今の自分を知るヒントは、いつでも過去にあるんだぜ。お前が振り返れば、ほら」
そこで彼は片腕を振り上げた。頭上をぴんと指差して、笑う。
霧は晴れて、月が出ていた。まん丸の、金色に輝く月だった。
月を指差したまま彼が言葉を続ける。
「こんなに暗い夜の闇だって、照らしてくれる光になる」
――ああ、天使か。
僕はそこで唐突にそう思った。彼は天使なのだと。



