だだっ広い屋敷内での食事会。


和んだ雰囲気の中が、何だか居心地が悪くて、俺達は先に席を立った。



心菜を部屋まで送る俺は、聞いてみた。


「心菜さん……いいんですか?」

「何が?」

「婚約ですよ?」

「いーんじゃない? 皆喜んでたし。」



あぁ、そーですかッ!



顔色一つ変えず、答える心菜に内心ムッとしながらも黙って歩いた。



え?


心菜さん?
敬語?



コレは、昔からの親の言い付け。

心菜の親は、普通でいいってんのにアホ親が、うっさくて。


【敬語】と【様付け】は、常識だそうだ。


小さい頃からだからナレたけど。

やっぱり、【様】は……言えず【さん】のままだ。



でも、まさか婚約だなんて。


心菜も口わりぃし、気きついし……。

俺が、断ろうと思えば、断れる。



ただ……ガキん頃に、心菜を守りきれなくて出来た胸の傷。

それを思い出すと……何も反論出来なくなる。