「ごめんね。遅れちゃったかな?」

細身のスキニーデニムに、ふんわりとしたレースのシフォントップスが女の子らしい雰囲気を既に振り撒いているというのに、顔の前で小さく両手を合わせて謝る姿はそれを更に際立たせている。

この子が結衣ちゃんかと思っていると、陽平は「私服も可愛い…」と呟いて固まっていた。しばらくは自分の世界から抜け出せないだろう陽平の代わりに「時間ピッタリだよ」と返せば、結衣ちゃんは俺の顔をみて驚きの声をあげる。

「この前の!!」

「この前?」

やはりどこかで会ったことがあっただろうかと考えていると、クスクスと笑いながら「膝小僧のお兄さんだったんだ」と言われてハッとした。

「交差点の! あの日、俺が轢きそうになった子だ!!」

「ふふ。思い出してもらえました?」

「え…二人知り合い? ていうか今轢きそうになったって言った!? おまえ結衣ちゃんに何したの!?」

騒ぎ立てる陽平は放っておくとして、世間は狭いものだなと思った。じゃあ、あの日この子が言っていた『人によっては』というのは、もしや……。

「真白のことか」

「え?」

「あの日、轢きそうになった人の片目がもし見えなかったら笑い事じゃ済まないみたいなこと言ってただろ。あれって真白のこと?」

「そう…ですけど。なんで真白のこと…。あ、陽平君に聞いたんですか?」

「いや。俺、陽平と同じとこでバイトしてるんだ。コンビニの夜勤」

「あ、じゃあ店員の馬鹿男二号ってもしかして…?」

「多分っていうか…絶対、俺」

一昨日、彼女自身に面と向かって言われたし。きっと理解力のない店員ということで名づけられたのだろう。

すると会話に混ざれていなかった陽平が「俺は一号らしいから遼より先輩だな」なんて言って無理矢理間に割り込んできた。それからダムが決壊したかの如く話しまくる陽平に、本当に結衣ちゃんにご執着なんだなと思うと腕時計を確認して周囲を見渡した。

待ち合わせ時間を過ぎてもまだ姿を現さぬ、彼女を探すように。