その日の放課後……。
俺はまた昨日のように、野球部の練習風景を……
ぼんやりと眺めていた。
「あ……。中道くん。」
不意に…。
誰かに声を掛けられる。
振り返るとそこには、やはり昨日と同じく……
落合 律が立っていた。
「昨日はどうも。」
「……。どーも。」
変な挨拶を交わす。
「中道くんて帰宅部?」
「うん。そっちは?」
「まだ検討中。多分バレー部に入るけどね。」
「…?もう始まってんじゃねーの?」
「………?ああ、まだ仮入部期間だから…バレー部は。そっか。野球部はスタートが早いもんねえ…、経験者ばかり入部するから。」
「…………。」
彼女はサラリとそう言ってのけたけれど…。
俺が今、何を見ていたのかを…完全に見透かされているような気がした。
けれど彼女にとってはどうでもいいことらしく…。
その視線は、ずっと別の方向へと向けられていた。
「あ、でも柚も早かったわ。」
「『ゆう』?」
「うん。貴方の斜め後ろの席の、上原 柚。…ホラ、あそこ…。」
彼女が徐に指さしたその方向に……。
「…………。」
あれ……?
「あの子、陸上部なの。入学早々からほぼ毎日…朝練やらにも参加してる。」
上原 柚。
俺の左斜め後ろの席に座っている女。
確かにそこには奴がいて……
もう一人の陸上部員と共に、スタートラインに立っていた。
よく見ると……。
集中を研ぎ澄ましているのだろうか。
奴は目を瞑り、拳を数回握り締めて……
それからようやく、しっかりと前を見据えた。


