As Time Goes By ~僕等のかえりみち~







私は自分の部屋にこもり、ベッドの上に腰掛けた。



右手にはシルバーのハサミを握りしめ、開閉を繰り返す。


ゆっくり、
ゆっくり…



何回も……。





美容師を目指す私は、たまにこうしてハサミを握る。



このハサミひとつで〇万円もする。


いいもので練習するように、両親が買ってくれたものだ。




ハサミの上を固定し、下だけを動かして……




トントンっ




ドアがノックされた。



ガチャ……



「ゆーうっ、お風呂次どーぞ~?」



…結だ。



「ん。ありがと。」



「……また練習?」



「うん。最近してなかったから。」



「柚は熱心だね。」



「…そう?」



「…私は飽きっぽいから、何しても続かないもんなあ……。」



「………。」



結、それは……



恋愛も?





「言っとくけど、恋愛は別だからね。自分から好きになった人に対しては。」



「………。」




読まれた…。



「あ。そういえば冷蔵庫にチーズスフレあるよ~。お母さん買ってきたやつ。」



「うっそ。ご飯前だしどうしよっかな~。」



「…夜中に食べるよりはいいんじゃない?柚、夜間食し過ぎだし。」



「…んじゃ~お風呂前に食べちゃおっと♪サンキュー、結。」



「…はいは~い。」



私はスフレの存在に心躍らせて……



急いで階段を駆け降りた。






私が去った部屋の中で…




「…全く…。本当色気より食い気なんだから。あ~あ、ハサミ投げっぱなし。」




まさか結が……




「…あれ?…何コレ。…野球観戦チケット…?」



あのチケットの存在に気づくなんて思いもせず……




♪~♪~……




「…電話?ま~た【不携帯】にして……。………。って、…え…?」




知らないうちに、



結を傷つけてたなんて……




気づきもしなかった。