「走りたい気持ちもわかるんだけどな、俺的には。」



「……ねえ。」


「ん?」



「アンタの怪我って…、何だったの?」



「…………。」



黙り込む中道。



聞いちゃ駄目だったかな…。




「…ん~…。怪我っていうか……。『野球肘』ってお前しってる?」



「……野球肘?」



「ん。例えば…、少年野球でずっとピッチャーとかしてて、無理な投球をし続けてたりするだろ。カーブをやたら練習したり、過度な投げ込み、投球数……。」



「……うん?」



「…そうすると、ここ…、肘関節が異常きたして…、軟骨が炎症したり剥がれたりするんだ。野球選手とかテニスプレイヤーによくある症状。」



「……。初めてきいた…。」



「…だから別に怪我って訳じゃない。ただそれが慢性化して……。それでも休むことを許されなかった。腫れた部分をキネシオテープで抑えつけて、俺は投げ続けた。何より野球が好きだったし、自分のポジションを奪われることを恐れて…。」


「…それで…、どうなったの?」



「悪化したよ、もちろん。腕を上げるのも痛いくらいにね。結局……最後の大会には出れなかった。自分の出る幕さえなかったよ。」



「…そんな……。」



「…仕方ねーよ。お前前言ってたろ?俺の兄貴のこと。たまんねーよ、やっぱ。かたや甲子園のヒーローだぞ。比べられんのが嫌だから…、俺は躍起となってたんだ。それがこのザマ。シニアの監督つとめてたのは俺の親父でさ…。無理難題ばっか押し付ける。だから……、野球をやめてやったんだ。まあつまりは…、親父への当てつけ!お前が言うこと…当たってたんだ。意気地なしの負け犬。…お前とは……違う。」




「…中道……。」



夕焼けに照らされた中道の横顔が……



寂しそうに見えた。



「…やめてから…、やっぱり野球したいって思わなかったの?」



「思ったよ、何度も。けど…、見ているだけが関の山。また同じことになったら…なんてそんなことばかり考える。それと……、一度決別したものだ。いつまでもこだわってたらキリないし。」



「…だから……、いつも見てるの?」



「ん?」



「…野球部。」



「やっぱ好きだからな…。どっかで繋がってたいってことじゃん?」



「…そうなんだ…。」