As Time Goes By ~僕等のかえりみち~

「今はまだ…、別れてやんない。……柚は…俺のものだから。」



その声は。



本当に小さい声で……。




私の耳元で、こっそり囁いた。





「………!?」





次の瞬間には……





首元に、小さな痛みを感じる。






「……やッ……!」



私は…、ありったけの力で、佳明の胸を突きとばした。






さすがにこれには…、佳明も驚いていた。



「……あーあ…、今まで散々我慢してきたのに。焦るつもりもなかったし、柚のことは本当に大切にしてきた。でも…、もう限界。」




「…………。」




「……いっそのことさ、お前を嫌いになれたら………楽なのに。」




「……佳明……。」




「……しばらくはソレ、消えないと思う。そんなのつけて…、柚はアイツの前で笑ってられる?」




「…………?!」





佳明の目線の先はー…、




……私の……、首元。






「……え?」





「最低な奴だって…思うだろ。なら、思いっきり罵ってくれればいいのに…それすらしない。まだどこかで…、俺っていう人間を誤解してる。」




「…………。」




「……往生際が悪い?そんなの、もうどうでもいいんだ。中道が……、アイツがそうしたように、俺もくだらないプライドなんて捨ててやる。今度は、俺が柚を取り戻す番だ。」



「…………。」



「…話っていうのは……それだけ。あまりにも隙だらけだったから…、つい。意地悪してわるかったな。」








呆然と立ち尽くす私を差し置いて……、



飄々とした様子で、彼は去って行った。









今のは……、




本当に、佳明……?!






「……どうして……?」




どうして…だなんて、今更考える方が浅はかだった。




佳明はまだ私を好きでいてくれて、



それを犠牲にして……、




私は中道を想う。





一方的に、見返りのない愛情を注ぐことほど……



虚しいものはないのだと、私は……



知っているハズだった。