「……いい加減諦めろ!」


中道がああ言えば…



「…嫌だね!」



佳明がこう言う。




ふたりの額からは汗が流れ……



それを拭いながら、勝負は続く……。





投球前の中道の癖。


それは……、
キャップのツバに触れること。


目を隠すようにして……


深く被る。





知らなかった中学時代の中道を……垣間見た気がした。






一対一のライバル勝負。


久しぶりにたったマウンド。




その姿は。



今まで見たどの中道よりも……



私には、輝いて見えたんだ。









「……時間だ。」



もっと見ていたかった気がするけれど、


最後まで見届けかったけど……。



実行委員の催し物の、交代時間。



声をかけたかったけれど…


中断させるわけにもいかなくて……




私はこっそりと、その場を抜ける。





……途端。




グランドに、快音が響き渡る。



思わず振り返ると……




佳明の、宣言通り。


その打球は……


どんどんレフト方向に伸びていって。


スタンドに位置する辺りへと吸い込まれようとしていた。



…が、ボールのその行方を見届けることはなく。



私の視線は……



違うものに、向けられていた。






私の元へ、真っすぐに走って来る君の姿に……




気づいたから。






佳明のホームランに対する歓声か……


ギャラリーが盛り上がる。



その声に、半分掻き消されながら……




「………待って!」




中道が……



私の腕を掴んだ。




「……ど、どうしたの?」



「『どうした』って…、最後まで見ろって言ったじゃん。」



「………でも…、今、勝負ついた。」



「…あれは、お前がいなくなんの見えたから……球がスッパ抜けただけだ。」



「……負けた言い訳?」



「違う。負けても…、お前に見てもらう為の勝負だったから。」



「…………。」



「打たれてばっかだったけど、ちゃんと投げれたろ?」



「……うん、そうだね。」



「…お陰で、諦めついたよ。」



「……え?」