あいつが大丈夫だなんて、なんの保障もなかった。



それはまるで……


自分に言い聞かせる呪文のようにもなっていた。



信じる気持ちに比例するかのように、次第に広がっていく不安を…払拭する為に。


置いていったことを…



本当は少しだけ後悔していた。



ようやく…

ちゃんと笑えるようになったのに。



また、悲しませているのではないかと……



考えてしまう。






結の言っていた当番時間。



それはもうとっくに過ぎていた。






「………あれ……?」



結のクラスの前には……


一般客の列ができていた。




さっきまでの閑散としていた雰囲気とは一変。



順番待ちの客からは笑顔が溢れていて……



活気をとり戻しているようだった。






俺は教室の中へと入り……


結のクラスメイトを捕まえる。





「…え。…わっ、中道くん。」




その女子生徒はちょっとカンに障るような高い声で……



声を掛けたことをすぐに後悔する。




「……結はどこ?」



「ああ…、あいつなら……」



そう言って、そいつが指差す方向に……



柚の後ろ姿。




「…ありがとね。」



爽やかぶって…一応は、礼をする。




心ん中では……
アイツ呼ばわりした上から目線に…、はらわたが煮え返る思いだったけど。




「……結っ!」



名前を呼ぶと。



自分が呼ばれたのかどうか、キョロキョロと辺りを見渡しながら……



ようやく、こっちに振り返った。




「……あ。中道!……くん。」



後付けした「くん」のひとことがあまりにも不自然で…




「あほ。」



つい、いつものように…



悪態をついてしまった。




「………。」



……しまった。相手は『結』でなきゃいけないのに……。




「……お前、何してんの?」



「…何って……、ヘアアレンジ?」



「……は?」



「…中道…くんが行ったあと、最初のお客さんにやってみたらさ、これがまた評判よくて……。口コミって怖いね。次から次へとお客さん来るんだもん!」



「……へえ……。」



手を休めることなく、髪をいじり続けているが……



何やら表情がいきいきとしている。