大好きだったはずのお祭り。


喧騒の……渦の中。




幼い頃から…


そんな、賑やかな場所に…ドキドキと胸を躍らせたものだった。




私は……



今確かに、ここにいる。



なのに………






まるでそれは……



独りの世界。




すれ違う笑顔。


それはもちろん、私に向けられたものではない。




どうしてこうなったのだろう。





目をつむると……




いつも、私の隣りには…



同じ顔で笑う、柚がいた。






『結、どーしたの?』



あれはまだ幼稚園くらいの頃だったか…。




近所の神社の夏祭り。




今みたいに……



私は独り。



境内でしゃがみ込んで泣きじゃくる私を見つけてくれたのは…



柚だった。




あの日。

おろしたての浴衣を着ていた私達。




「二人共かわいいなあ。」



顔を綻ばす父。



初めての浴衣。



それはそれは嬉しくて……



できもしないスキップをしながら…



出店の前を歩いていた。



「結、座って食べなさい。」


大好きなどんど焼きを片手に持って…


母の注意を無視して、慣れないサンダルで、どんどん先へと進んでいく。




「結、待ってよ~!」



珍しく後ろを追い掛けてくる柚。


その声が遠くなった時に……



私はようやく、足を止めた。




ゆっくりと振り返る。





柚の姿は……




なかった。




人混みにのまれて…、



誰かとぶつかる。





次の瞬間には。



私は…地面に膝をついていた。




「あ……。」



気づけば浴衣の綺麗な柄に、


べっとりとどんど焼きのソースがついている。



もちろん、そのどんど焼きも……



私のすぐ傍に落ちていて、誰かに踏まれたのか……



いびつな形をしていた。




「…………。」




浴衣を汚してしまった。



じんじんするひざ小僧から……


じわりじわりと血が滲んできて、白い浴衣がその鮮血に…染められていった。



私は慌てて裾をめくって…



立ち上がる。



……が、




ただの一本道。



なのに……



もう既に、どっちから来たのかわからない。