As Time Goes By ~僕等のかえりみち~

いつもよりも声がスッと…


耳に入る。



邪魔にならないように、
そっとはなをそえるかのように……



その声に、合わせる。




何度も中道と目が合った。



鍵盤を見なくても……



自然とつながる旋律。



プレッシャーだったはずが……



喜びへと変わっていく。





音が楽しそうに弾む。






……あ。



中道も笑ってる。




さっきまでの締まった表情が……



穏やかな笑顔。




あいつも……



ちゃんと楽しんでいる。




緩急つける場面も、


声が入るタイミングも、



さすがだな……、



何一つ間違うことはない。






終盤……



最後のフレーズの前に、一瞬だけ、伴奏を止める。



その一瞬が……




この合唱の鍵を握る。



クレッシェンドで段々盛り上がりが増していくその瞬間………




ピタリと音がやむ。






しん…と鎮まる体育館。



拍手が起きかけたその時に……





絶妙な、指揮のタイミング。





ピアノの静かな演奏と…ワンフレーズのハーモニー。







最後の一音を弾き終えると……




結の書いたメッセージが…目に入った。




『上手だったよ!がんばった!』





……うん、




結……、


私……ちゃんと弾けてたかな。




誰よりも早いフライングの祝福に……




涙が一筋頬を伝った。





やり遂げた達成感と、気の緩みが一気に溢れ出したのか……



幸福感で満たされていく。



一礼して登壇する時……





中道が、私の肩にポンっと手を置いて……


通り過ぎた。





言葉はなくてもわかる。




『頑張ったな』って…


目が、そう言っている。




「そっちこそ…。」




私は小さくそう呟いて……





ステージを、後にした。








佳明が、一生懸命手を叩いている。



私は彼に向かって……



小さくVサインをする。




そして………




結もまた、


何度も頷きながら…、



微笑んでいた。