「……例えば、それが俺だったり。だから……もうとっくに越えてんだよ、俺のこと。」
顔を決してこちらに向けようとはしないけど……
口の端をキュッと上げて、奴は微笑む。
ドキンと音を立てる心臓……。
「…逆に俺がお前を越えたいよ。いちいちお前の行動に、言動に、振り回されることがなくなるように………。」
中道が……?
振り回されて……?
「………けどさあ、嫌じゃねーんだよ、不思議なことに。」
「…………?」
「必死になってるお前になんだかんだ振り回されることが……、俺にとっちゃあ嬉しくもある。」
「……中道………。」
「これが、惚れた弱みと言う。」
「………?!」
「……あ。今のは戯言。聞き流せよー?」
聞き流せって……。
聞いた後にそんなこと無理じゃん!
「…まあ、そんな訳で……、こっちはもう大丈夫だからさ。お前はもう帰れや。」
「……嫌。」
「また倒れられても、困るんだよ。」
「……嫌だ。」
「…つーか、むしろ心配でイラつくからさ。」
「……………。」
「明日はピアノもあるだろ。」
「…でも………」
「うるせーな、しのごの言わずにたまには人の言うこと聞けよ。」
「…………。」
「…こっちは俺がうまいことやってやる。お前は…自分の心配してろ。」
「…あんただって…、ずっと働き通しじゃん。私に代わってチョロチョロ動き回って……。夜遅くまで野球してて、それに、指揮だってある。私よかよっぽど負担かかってる。」
「…俺は要領いいし?お前と違って無駄な体力使ってねえよ。それに…男と女じゃ体力も違う。お前はいくら強くたって女だ。だから……、たまにはおとなしく守られてろ。」
「……………。」
「…俺の役目は…それくらいしかねーからさ。里中にできなくて、俺にできることって…このくらい。………じゃあ、お前の鞄持ってくるから。ちゃんとここで待ってろよ?」
私に背を向けて……
教室へと姿を消す中道。
揺るがない背中。
その強さに振り回されているのは……
私の方だと思っていた。


