そんなある日だった。
「…ゆーうちゃんっ!」
名前を呼ばれて
教室の入口に目を移すと……
そこに、三井先輩。
「…げっ、アニキ何しに来たんだよ。」
ちょうど私と話をしていた三井くんが、警戒して私を自分の背に隠した。
「…良輔~、俺は柚ちゃんに用事あるの。てか、柚ちゃーん、こっち来て。」
「あ、は~い。」
無下に断ることもできずに、私はひょいと顔を出す。
「…わっ…、馬鹿…。」
三井くんは私に振り返り、ダメダメっとジェスチャーした。
「……?変なの、三井くん。」
立ち上がり、先輩の所に向かおうとした所で……
ぐいっと誰かに手を引かれた。
もう少しで転びそうになるところで…、頭上から、低い声。
「…今音楽室借りれるって。誰かにとられる前にいかねーと。」
肩を支える、ゴツゴツとした大きな手。
ぅおお~…?!
私は心の中で叫んだ。
「…ほら、早く行くぞ。」
「…え?」
強引に手を引かれて…
引きずられるようにして、私も歩み出す。
「…ちょい待て。」
入口で……
先輩が私の反対の手を掴む。
「…時間はとらせない。」
「…………。」
「…中道…、後で行くから。」
無言になった中道に、私がそう告げると……
「…時間ないし。」
中道は、今一度手をひく。
「待って。すぐ行くから…。」
私の手から……
中道の手が離れていく。
反対に、先輩に掴まれたその手に力が入る。
「…すぐ来いよ。」
中道は先輩に一瞥して、一度も振り返ることなく…立ち去った。
「…ぷっ…、何アレ?ヤキモチ?」
「はいっ?…そんなんじゃないですよ。」


