空はまだ明るくて、
夏のこの暑さに少しイライラするけれど…
いつもの私とは違う。
優しい香りが鼻に届く度に、ほうっ…と溜め息が出る。
お洒落することに興味はなかった。
香水なんてもっての他だった。
なのに…
こんなに嬉しい自分がいる。
私もちゃんと女の子しているって実感する。
今まで…
ちょっぴり損していたんじゃないかな。
いつもいつでも結が羨ましくて、なのに真似することはできなくて、
羨ましくて、
少し嫉妬して、
ただ、何も出来ずにいた。
それは意外に簡単なことで……
大人への階段をほんの少しだけ…
一段だけ登れた気がして
ならなかった。
「柚、なんかいい匂いする。」
公園のベンチ…
私と肩がぶつかるそのキョリで……
佳明が小さく呟いた。
「…でしょう?紗枝ちんから香水もらっ……」
突然
唇を塞がれて……
私はこれ以上話せなかった。
「誘惑だよなぁ…。コレ、卑怯じゃん。」
目を合わせることはなくて……
真っ赤になっている佳明の横顔。
「………そんな顔されたら……それこそズルイよ、佳明。」
今度は私が佳明の頬に…
キスを落とす。
優しい香りは…恋の魔法。
二人が近づく夏の夕暮れ。
私達は……
そんなひと時に、酔いしれていたのかもしれない。
そう……
君が必死になっているその影で……
恋愛という名の逃げ道に……
足を踏み入れていたのだ。


