As Time Goes By ~僕等のかえりみち~

そのまま両者無得点のまま回は進み…


6回裏…、


とうとう試合が動いた。



3番バッターがフォアボールで塁に出ると…、


続く4番が内安打。



そして、5番…、里中佳明。



2アウト、1・2塁のチャンス。


彼の打順の時には、私は毎回手を組み…その背番号『1』に向かってひたすら祈っていた。



2回にはライトフライ。

4回にはセンター前ヒット。


2打数1安打。



得点には繋がらないけれど、長打を打っている。



バットの快音と共に……



彼がグラウンドを駆ける。


1塁ベースを蹴り、2塁へと向かう。


ベースコーチの指示で更に走る。


打球はスタンドの壁にぶつかり……



跳ね返った球をライトが捕球……
できない。


ぽろりと、落としてしまう。



その間に、走者がホームベースに戻ってきて…

2点先制。



鋭い送球が来るが、滑り込んだ佳明は……


セーフ。


3塁打だ。









吹奏楽の痛快な曲が流れて……


生徒達のボルテージが一気にあがった。



もちろん、私はおろか結までも……


「きゃ~っ、里中くんカッコイイ~!!」

…なーんて、叫んでいる。


律の応援がより様になっていて、これが甲子園のアルプスなら絶対テレビに映っただろうなぁ…、なんて妄想を膨らませた。




結局…、
佳明はホームに帰ることはなかった。


…が、ベンチに戻るさなか……



彼はスタンドの方に顔を向けた。


あそこから人物を特定することはできないんじゃないかと思う。


でも……、



こっちを見ている気がした。


左腕を高くつきあげて……。



もしかして、二つ並んだこの派手なキャップのおかげかな。



うっかり…
ニヤけてしまった。