「ただいまー…。」
願わくば、自分の帰宅を結に気づかれたくない一心で…、私は玄関で小さく呟いた。
誰もいないのか、キッチンや居間から声が聞こえることはなく……
私はホッと安堵の息をつく。
その代わりに、玄関には…僅かに香る、優しい匂い…。
ふと靴棚の上を見ると、それはそれは華やかで、凛とした美しさを誇る鮮やかな紫色の花が……
まるでその存在を主張するかのように、咲き誇っていた。
かすみ草が、更に引き立たせるようにして…周りを囲んでいた。
「わあ…、綺麗……。」
家の玄関には、いつもこうして花が飾られている。
チューリップやガーベラ、ゆり、薔薇……。
季節に合ったものが常に飾られている。
センスのいいフラワーアレンジメントが置かれることも多い。
…が、足を止めて見るほど意識したことはない。
「へぇ~、こういう花もあるんだ。」
後で何の花か聞いてみよう。
2階への階段をのぼりながら……、
私はポケットから携帯を取り出す。
着信……なし。
メール……
なし。
もしかして中道から連絡が来るなんてことは…
あるはずもなかった。
この日結局……
友人とご飯を食べてきた(らしい)結とはほとんど顔を合わせることはなく……、
次の日も、陸上部の早朝練習があることを理由に……
顔を合わせずにすんだ。
授業の合間になると、私は思いたったかのように……
携帯を開く。
「メール?…に、しちゃあ長いね。何してんの?」
斜め後ろから、律が顔を覗かせる。
「…ん~?調べもの。」
「…そんな熱心に何調べてんのよ。」
「……花!」


