部活からの帰り…。
「………。」
私は……
野球部の練習風景をぼうっと眺めていた。
汗と泥にまみれた彼らは、誰一人と目を逸らすことはない。
土色になった白球だけを……
じっと見ていた。
マウンドの外で、佳明が投球練習をしている。
ごく最近までは、外野手として歯をくいしばり…全力でボールを追う姿を見てきたが……。
この光景は……?
監督が彼を呼ぶ。
肘を掴んで、何度か同じ動きを繰り返し……
彼は数回小さく頷く。
「……もしかして…。」
…そう、私の憶測が正しければ…、
彼は、ピッチャーというポジションを任されたのかもしれない。
…知らなかった。
聞かされたこともなかった。
この時期に……
こんな大切な試合を前に…
試合を作る大切なポジションへの変更…。
少なからずプレッシャーや不安があったはず……。
けれど決して言わなかった。
いつか私がその場面を見ることがあると知りながら。
きっと…佳明は、強い人。
私なんかよりも、数段……強い人。
それでも……
知りたかった。
少しでも励ましたりできたかもしれない。
彼が言わないその理由は…
何だろう。
「…………。」
でも……
今の私に、掛けられる言葉なんてない。
ついさっきまですぐ傍にいたでしょう?
なのに、自分を取り繕うことしかできなかったじゃない。
強くて……、賢明な人。
私で…良かったのかな。
彼の隣りにいるのが私で…
本当に良かったのかな…。


