家に帰っても……
胸がふわふわと躍っていた。
鏡の前に立ち、じっと自分を見つめる。
どうしても…
口元に目がいってしまう。
佳明とのキスが…、
まだ唇に、残っていた。
「……しちゃった。………しちゃったよ~っ!!」
取り敢えず、じたばたと騒いでみる。
「…なにを【した】って?」
部屋の扉が開かれて…、
結がひょっこり顔を出した。
ヤバい……。
これはヤバイ!
「…そっかあ…、柚しちゃったんだあ…。」
「………?」
何か……
元気なくない?
「お似合いだもんね、二人……。毎日楽しそうだしさ。」
「………?」
暗い。
どんだけ暗いのさ、結……。
「あの…?」
「ハイ?」
覇気のない返事……。
「なにか……、ありました?」
「何かって?」
「……中道と……。」
勇気を振り絞って……
あいつの名前を出した。
結とあいつが付き合ってから初めて……
面と向かってこの名を口にする。
今だからこそ、言えたのかもしれない。
「……ないよ。」
「……ん?」
「なあ~んも、ない。」
パタン…とドアが閉まり、
結は姿を消した。
「…………?」
なんだそりゃ。
だけど……
結だって仲いいじゃん。
恋愛ベタな私と違って、きっと結は上手くいってるんだろうな。
中道とキスとか……、
してるんだろうな。
いや、それ以上……?
私はブンブンと首を振る。
「負けないもんっ。」
訳のわからないライバル心を剥き出しにして…、私は意気込んだ。
「大会が終わったらデートだ!」
…けど…、
カワイイ服なんて持ってない。
シンプルで動きやすいパンツスタイルが基本の私には……
デートという大きな砦は、ちょっとしたプレッシャーだ。
「…どうしよ~!」
アタマをわしゃわしゃと掻き乱し、再び鏡を見入る。
髪型も……
どうする?
気づけば肩まで伸びた、手入れの行き届いてない髪の毛……。
そして……
「…お母さん、お願いがあるんだけど。」


