「名前でいいって本人に言われたのよ。自分自身に殿下って呼ばれてるようで気持ち悪いって」

「たとえ、そうでも……!」


 ロイドが反論しようとすると、殿下が笑いながらそれを制した。
 ロイドは仕方なく引き下がる。

 自分のいう事はちっとも聞かないくせに、殿下のいう事はあっさり聞き入れるとは、どういう了見だ、とロイドは思った。

 殿下と少し話をすると、ユイは再び厨房へ向かう。

 そこへお菓子につられてローザンがやって来た。
 ユイは殿下になりすましてローザンをからかった後、改めて厨房へ向かった。

 ロイドはその間に、ローザンと共に机と椅子を用意する。
 全員席について雑談をしていると、お菓子をのせたワゴンを押してユイが戻って来た。

 ユイはいつものように茶を淹れ、皆にお菓子を配る。

 いつもは仕事の合間にホッとひと息つくだけの慌ただしかった時間が、今日はゆったりと流れていく。

 目の前に置かれたお菓子を、ゆっくりと味わいながら、ふと思った。

 ユイの作ったお菓子を食べられるのは、これが最後かもしれない。

 そう思った途端、胸の奥が何だか分からない感情でざわついた。

 しばらくの間、お菓子を食べながら談笑すると、ロイドとユイを残して、皆は研究室を後にした。