その直後、ユイの平手が頬に振り下ろされた。

 頬を打つ派手な音に驚いて、ユイは目を見開いたまま硬直している。

 ロイドは少し頬を撫でた後、メガネをかけ直し、ユイをまっすぐ見つめた。
 少し目を細め、口の端を片方持ち上げると、静かに言う。


「それでいい」


 そして背を向け、殿下の部屋を出て行った。

 研究室に向かいながら、ユイに打たれた頬を撫でる。

 連れて逃げて不幸にするくらいなら、嫌われた方がマシだと、自ら望んだ事だ。
 なのに実際、嫌いだと言われると、かなり痛い。

 自分が傷ついた事より、ユイの泣きそうな顔を思い出すと、ユイを傷つけた事で、打たれた頬より、胸の方が遙かに痛んだ。