抱きしめて欲しい、って。







あの、海の日のように抱きしめて欲しい、なんて。








素直に言えたらいいのに。








一度詰まってしまった言葉に、

続く言葉はなかなか出てこなくて。








緑がいっぱいの、静かな公園の中をゆっくり、ゆっくり、二人で歩く。













「大学一年とき、急に夜呼び出して、カラオケオールしたの覚えてる?」





希鷹の声がポツリ、ポツリと、心地よく頭の上から降ってくる。









「うん、覚えてる。」





泣きそうな声して、電話で呼び出されて。

急いで駆けつけたら無理して笑ってた希鷹の顔が鮮明に思い出せる。








「あの日さ、百合子と大地のヤってるとこ、見ちゃったんだよね。」







「?!」







思わず、立ち止まってしまう。



つられて希鷹も立ち止まり、振り返ってあたしを見つめる。








ねぇ、なにそれ。





そんなの、許せない。

あんな辛そうな笑顔で。




あたしは、入学してから二年半、ずーっとずーっと、希鷹を見てた。

だから、どれだけ希鷹が蒲田さんに振り向いてもらおうとしてたか、それが、痛いほどわかる。









わかるから、








「…希鷹っ!」








よく、頑張ったね。って


よく、耐えたね。って







そんな気持ちを込めて、抱きしめずにはいられなかった。




身長は、あたしの方がちっこいから、抱きかかえてあげることはできないけど。


あたしは、あなたのすべてを受け入れるよ。









「がんばったね…。

がんばった…。」






あーあ、なんか泣き上戸の酔っ払いみたい。





希鷹の背中に手を回して、ぎゅーっと抱きしめる。




心臓が痛くて、痛くて。

励ましてあげる言葉なんて見当たらなくて。









幸せになってほしい、と


心から思った。