部屋に戻ると蝶が座っていた。

「あ、土方さん。」

「すまねえな。沙織を追いかけてもらって。」

「あ、いえ!全然大丈夫です。」

「あの時、お前はどう思った?」

「え?」

「沙織が、「死んだ人のことは生きている人が覚えててくれるけど、死んだ人間に忘れられた生きた人間はどうすればいいのかしらね?」とお前に問いかけた時だ。」

蝶は驚いてこちらを見つめる。

「聞いていたんですか?」

「ああ、たまたまな。」

すると蝶は考えるような瞳になる。

「確かに、残された方はつらいと思います、でも・・・」

「でも?」

「たとえ、死んだ人に忘れられてもその人とすごした記憶は残ります。それは嘘偽りもないものです。」

「ああ。」

「その記憶を胸に生きていけば、寂しさも少しは減るんじゃないでしょうか?互いに互いを認め合っていた時間、ともに過ごした時間、愛した時間、すべてが大切な宝物ですから。それに・・・」

「それに?なんだ?」

「たとえ、忘れらても私たちが覚えていればなにもなくならないのだと思います。また、巡り合えた時に思い出してもらえたら私は幸せです。」

そう言って少し涙目で微笑む。