苦しかったんだ。
“そこでそうして、俺の前だから笑ってみせる彼女が悲しくて”――


「今日あたりは、またいつもの食卓に戻れると思いますよ。ロードをやっと説得できましたから」


たわいない世間話をする彼女の前に立つ騎士の指が震えていることを、当の彼女は知らない。


否、知らせるべきではないとクロスは拳を作った。


「あなたは悪くない、と。ロードもちょっと頑固なところがありまして、最初は聞く耳も持たなかったのですが、少し日が経てば話を聞いてくれるのは昔から変わらないのですよ。

話せば分かってくださる。そうして、やり過ぎたかと思えば謝罪なり詫びなりをつけてくれる。ああ、今夜はクロスが好きなビーフシチューかもしれないですね」