その場に、赤毛の女神が立っているのならばなおのことだ。
「姫……」
風が女神の長い髪を撫でて、その顔を隠す。恐らくは今の風で女神の騎士たる彼の言葉も、どこかに拐われてしまっただろう。
呼んで届かないならまた呼ぶべきだが、ためらわれた。
女神――そう称した彼女に声をかけることがおこがましいと思えたのだ。
いつもならば気軽に声をかけ、かけられる仲であるというのに――ああ、だから、“今であるのがいけないんだ”。
場所と時間帯。
神聖すぎる物に溶け込んでしまった彼女は、もうこの世の住人ではないようだった。
つまりは、女神と。
その慈悲深さ、美しさ、神々しさから彼女はよく天上の人だと皆から讃えられている。