律子はある日、暗闇の中で夢を見た。

 見知らぬ国の見知らぬ土地の話で、見知らぬ兵隊さんが、話をしてくれた。


 ロシア軍将校、ディミートリィ・アンジェエフスキは、湖上に陣を敷いた日本軍を見て、憂鬱になった。
 春がくれば、湖の氷も溶け、両軍は湖を挟んで対峙する。
 しかし、一旦、氷が張れば、湖上に前線を進め、互いに牽制し合う。

 その頃、ロシアでは、首都ペテルスブルグをはじめ、各地で帝政に対する反乱が起っていた。

 一方、アンジェエフスキのいる局地では、痩せ細った日本軍の兵士が、ロシア軍陣地から丸見えの状態であった。

 争い続ける人々に、アンジェエフスキは、満天の星空を見上げた。

 故郷にいる家族のことを思うと、なぜ自分が不毛な氷の上にいるのか、説明が付かないのだ。