なんでも屋 神…最終幕

携帯でタクシーを一台事務所の前に呼び、初老を迎えたばかりの運転手に、行き先を[赤とんぼ]とだけ告げてシートに身体を預けた。



俺の前に乗せた客は、何処からか流れてきた酔客だった事を、車内に残された酒臭さが教えてくれた。



その臭いに堪らず窓を開け、鼻を正常な状態に戻そうと、目を細めながら外気を浴びる。



今年度一杯で定年退職を迎えるという運転手は、今まで乗せた事の有る客の話しを、軽やかな口調で話してくれた。



今では大物俳優となった芸能人から、バブル時に儲けた社長の栄光と転落や、行き先も告げずに眠ってしまった困った客の話し。



目的地である[赤とんぼ]に着くまでの間、俺が退屈だと感じた事は一度も無く、楽しい十数分間のドライブとなった。