彼はただの一度も振り返りもせず真っ直ぐに出口に向かっていく。


こんな別れは不本意に違いない。


が、最初から期間限定という条件だったのだ。


こちらが責められる謂れは全くない。


日向子は肩を落として小さくなっていく背中をその場でただ見送った。


これ以上交わす言葉はないし、
交わすべきでもないだろう。


下手な温情は彼を苦しめるだけだ。




貴文は恋人として見れば、
非の打ち所がなかった。




気持ちもなかったわけではない。




ただ運命の男ではなかっただけ…






だから、別れの場所としてここを選んだ。


期間限定であればこそ幕を下ろすのはここと決めていた。

始まったこの場所で、と。






もう会うこともないだろう。




ならばせめて




この背中は瞼に焼きつけておこう




必ず幸せを掴み取るために。




それがせめてもの償いだ。






ゲートをくぐった彼に日向子はそう心に誓った。