こんな不毛な会話はやめよう。


この場から離れたい一心で強引に脇をすり抜けようとしたが、すれ違い様に手首を掴まれて抑えていたものが爆発した。



「触らないでよっ」



自分でも驚くほど大きな声を出してしまった。
ハッとして周囲を見回すと、絶句した視線が注がれていた。


恐る恐る振り返ると、運命男もこっちを直視している。


あろうことか彼の目の前で醜態を晒してしまった。


入社初日にこんな痴話喧嘩を繰り広げている女を彼はどう思うのだろうか?


もう何がなんだかわからなくなって涙が込み上げてきた。



「何、大声出してんだよっ。
 俺に捨てられたからって被害者面すんのおかしくねぇ?
 マジ迷惑なんだけど…」


清和は立場の悪さを感じたのか、体裁を取り繕うよう言い訳がましく叫んでいる。




これ以上恥を重ねたくない…


もう…帰りたい…




が、掴まれた手首を振りほどこうとしても、清和は離そうとはしない。


なす術がない。寸前で耐えていた涙が頬を伝った。




――もうどうでもいい…




諦めかけたその時だった。




突然、私の手を掴んでいた清和の力が弛んだ。