日向子は人波を掻い潜って、背を向けたその男子の前に回り込んだ。



「……っ!?」



――嘘…でしょ?



日向子は男の顔を見て言葉を失った。


目の前に立っていたのは、四年前にいとも簡単に私を捨てた最低男、倉田清和だった。



「…あ?……あ?あ~~?
 ひな…?…日向子だよなぁ?
 何してんの?…こんなとこで」



清和は私を覚えていた。

そして笑って問いかけた。

四年前の罪悪感など欠片もない。



もう時効だとでも思ってるのか?


それとも何も感じてないのだろうか?



答えはおそらく後者だろう。
不敵な笑いが言わずとも物語っている。


――やっぱり、こいつは最低だ。


偶然の再会をあろうことか楽しんでさえいる眼前の男を日向子は敵意をむき出しにして睨み付けた。


日向子の殺気に気がついたのか、



「あれ?何か怒ってる感じ?

 おいおい、穏便に行こうぜ。
 これからは仲間…なんだよな?」



と握手するつもりで手を差し出している。


呆れて二の句が告げない。
怒鳴りあげようとした寸前で理性が働いた。



――あいつのイニシャルはK·K
  当たり前だけど対象外だ。


――今はこんな奴に構ってる場合じゃない。




と、その時だった。
目の前を大柄な男が横切った。




チラッと見えた……




赤いネクタイ!