「…へ」

「何だよ」

ひょっとしなくても私は今、お礼を言われたのだろうか。

頭がついていかない。

馬鹿と言われてお礼なんて、どこのマゾくんなのかしらとぼやくと神埼はずっこけそうになった。

そして、こっちだよ、とあきれたように言ってマグカップの中で湯気をたてる液体を指差す。

…あぁ、そういうことか。

「…風邪に利きそーだな」

「そうね。ホットミルクはあったまるし」

「ただの隣人に気遣わせちまったな、悪い。」

「別に?ただの気まぐれだから」

「そうかよ。…まぁ、それでも一応、な。」

いつものようにつっかかってこない彼に、なんだか気が抜けた。

風邪で弱っているせいだろうか、神埼のいまいち覇気のない声と表情を見ていると、なんだか調子が狂う。

いつもの私なら嫌いな男なんかの心配なんて、しないはずなのに。

一人でもやもやしていると、神埼がソファにくたっと凭れかかったまま、すこし後ろで立ち尽くす私のほうに振り返った。

心なしか赤い頬、悩ましげにすこし歪んでいる整った顔立ち。

びくり、とちいさく私の体が動揺したみたいにふるえた気がしたがここは綺麗にスルーを決め込むことにした。