隣で眠る彼の横顔を
彼女はじっと眺めている。

眠る彼の横顔は
俗にいう彫刻のような端整な顔立ち。
先まで形を整えた眉。
流れるような筋を描く目。
ラインの綺麗な鼻。
どちらかと言えば薄い唇。


彼女の視線は下に降りて行き
一つ一つ、ゆっくりと眺める。

筋張った男らしい太さの首。
規則正しく上下する逞しい広い胸。

ウエストは美しくカーブを描いている。


彼女は彼を眺め呟く。
「まだ私だけのものじゃないんだね……」



彼女は彼の胸にそっと耳を当てる。

ドクン…ドクン…ドクン…

彼の鼓動が彼女の耳に伝わる。

彼女は目を閉じてじっと聴いている。


ただひたすら聴いている。



トクン…トクン…トクン

トクン…トクン……


トクン……



ト…クン……



彼女の耳に伝わるのは
彼の仄かな体温だけになった。



彼女は唇を軽く噛んでから呟いた。

「私だけのものになったね……」

彼女の頬をいく筋もの泪が伝い落ちる。



「私もあなただけのものだよ……」

彼女はまだ血色のある彼の唇に口づけた。


そして彼女は目を細め、唇の両端を少し上げた。





停止した「二人の時」は
窓の外の喧騒に静かに飲み込まれて行く。