私情で綾瀬唯を帰してしまったから?

森崎の鋭い突っ込みに、ビビっているからか?

夜勤明けの睡眠不足の思考回路だからか。

そう思うようにして、襲ってくる疑問と不安を押し潰す。

どれくらい時間がたったのだろう。

数分だったはずだが、ずいぶん長く感じた。

「そうだ、生活安全課から渡された報告書持っているか?」

やっと、森崎が現実世界に帰ってきた。

「あれ?どっかにあった気がしたんだが。」

自分のデスクや隣のデスクもガサガサと探した。

いきなりの大人数でごった返していたから、どこに何があるやら。

「今すぐ必要か?」

「必要といえば必要か?」

曖昧な森崎の返事。

「なんだよそれ。」

「いやぁ…オレの記憶違いなんだろうけど、頼まれた人数が違った気がしたんだけど。いちよう確認しておこうと思って。」

「そっ…そうか。」

現実に帰ってきた途端、いきなり痛い所を突き刺す森崎。

どこをどうにしたら、綾瀬唯から仕事に変わるんだ?

やっぱり、何かに感づいているのか?

「そろそろ終りだし、見つからなきゃいいや。気のせいだろうし。」

「ああ…人数も多かったしな。」

冷たく振るえ切った心臓の鼓動が、フルスピードで全身を駆け抜けていく。

頼む!!気付かないでいてくれ。

ただ、それだけが頭の中を埋めつくした。

結局、書類は見つからないまま勤務時間が空けた。

飯でもと森崎に誘われたが、綾瀬唯が気になってしかたない。

疲れたから寝るわと、足早に家に帰った。

家に着くと、玄関の前で足が止まる。

いつもなら、ただ家に入るだけの玄関のドアが、こんなにも重く息苦しく感じたのは初めてだった。

まるで、地獄行きの扉を開けなくてはいけないかのよう。

フッと力強く息を吐くと、ドアノブに手をかける。

ガチャっと、鍵を開けゆっくりとドアを開けた。

そのドアが鉛のように重く、スロー再生のようにゆっくり、ゆっくりと開く感覚。

開いたドアの先には…