「よく遊びに来るし、警察官になった時、一度会っているからだろう?」

平然を装って答えるけど。

バクン!!

バクン!!

急速に鼓動だけは脈を打つ。

「そっか…だからどこかで会った気がしたんだ。ああ!!さっき、名前くらい聞いておけば良かった。」

悔しそうにドンッと人の机にほおずえをついた。

「唯だよ。」

気付かれていない少しの安堵感が。

無意識に名前を言っていた。

「唯ちゃんか。苗字は?」

一瞬だけ、頭の中の不安が駆け巡った。

でも、ここで答えないわけにもいかない。

何かを感づかれても嫌だ。

森崎のことだ。

この気に入り方は、数日は綾瀬唯の事を聞かれるのは想像がつく。

「親父のイトコの娘だから、綾瀬じゃなかったかな?」

ちょっと苦しい嘘かな?

そうは思ったけど。

「綾瀬唯。名前もかわいいな。」

顔が緩んでいく姿に、どこかホッとしている自分がいた。

そのまま森崎は、妄想の国に住み着いたらしい。

当分は現実に帰国できないだろう。

オレにしてみれば、帰国しないでいてくれた方が助かる。

綾瀬唯の事を聞かれなくてすむからだ。

さすが?警察官。

突っ込む所がするどい。

森崎が気付かないか心配はあるが、オレの心配の大多数を占めているのが綾瀬唯だ。

あの後、ちゃんと家に帰っただろうか?

今頃、何しているのか?

帰ってこない間、どこで何をしていたのか?

次々に疑問と不安が襲ってくる。

今日は、定時キッカリに仕事を終わりにして一目散で帰ろう。

帰ったら綾瀬唯は、また玄関で寝ているはずだ。

なんでオレは、こんなに心配で押し潰されそうなんだ…?