まさか、そんなことを海翔に聞かれると思っていなかったから。

一緒にいたら、いずれは聞かれることかもしれないけど。

まさか、この瞬間なんて。

都合のいい答えなんて持っていない。

動揺したのを隠そうと視線を窓の外に向けた。

「どこの高校?」

まさか、本当の学校なんて言えるはずない。

中学3年から行ってないし、高校はエスカレーターだけど、どうなっているかも知らない。

海翔の知っている偽名の綾瀬唯は17歳だけど。

本当のあたし。

蒔宮紗羽は16歳。

高校のことなんて何も知らないから。

答えようがないって言えばそれまで。

でも、このまま黙っているのもおかしいし。

「行ってない。」

簡潔に答えた。

それしか答えられないもん。

「行ってないじゃなくて、どこの高校なんだ?」

「だからぁ、行ってないって言っているじゃん!!」

ジレッたそうに声を張り上げると、海翔の眉がゆがむ。

「行ってないって…」

「辞めたの。」

そういうことにするしかない。

そうすれば、これ以上、何かを聞かれることもないし。

答えることもないから。

「あぁ…そっちの行ってないね。何で辞めたんだ?」

「てか、人に聞く前に自分の事を話せば?」

「聞かれたらマズいのか?」

「そうじゃなくて。尋問(じんもん)されているみたいでイヤ。」

なんとか理由をつけて。

この場をやり過ごすしかない。