梅雨前線の最後の抵抗かのように、雨が降り続いている。

エレベーターを降り勇み立って部屋の前まで歩いて行くと、玄関の扉の前で大きく深呼吸した。

行動とは逆に、中身は緊張しすぎでピリピリと胃が痛む。

ギュッと目をつむると、そのまま仁王立ち状態でうつむいて固まっている。

怖くてインターホンすら押せない。

「……何やっている……自分…。」

情けなくてボソリとつぶやいた。

もう一度大きく深呼吸すると、ゆっくりと目をつむった。

「よしっ!!!!」

パチッ!!

っと、何かのスイッチが入ったかのように、目を開けてインターホンに手が伸びた。

ピンポーン…
ピンポーン…

応答なし。

「いないのか…。」

なんて、決まりきった台詞を言ってみたりして。

なんか、ホッとしている自分がいる。

振り返えると、大粒の雨がザーザーと勢いよく降っている。

「この雨の中、帰ってからまた来るのもなぁ…。」

つぶやきながら、玄関にもたれて座り込んだ。

ふと見上げた空は、グレー一色で。

あの日の空を思い出してしまった。

オレンジ色だった空が群青色になり、星が輝いていたあの日…。

こんな風に、玄関の前で霧生くんの帰りを待っていたっけ。

あの時は、霧生くんと冬槻先生の仲を取り持つんだって大張り切りで。

適当な理由つけて、冬槻先生と霧生くんをご飯食べに行かせようとしていて。

冬槻先生から連絡するようにしたんだっけ。

その報告をしたくて、急いで霧生くんの家に行ったらいなくて。

こんな感じで玄関の前で待っていた。

「懐かしいな…。」

ため息混じりにつぶやいた。