ふと男が足を止めた。

そこは、ごく普通の18階建てのマンション。

「どこ?ここ…。」

マンションを見上げながら問いかける。

「オレの家。」

サラッと答えるだけで。

エレベーターの9階を押した。

「何でアンタの家なの!?」

意外な場所に少し戸惑って聞き返した。

「そんな濡れた格好だったら、署に連れて帰ってもカゼひかすだけだし、オレの家が近かったからな。」

近いって。

それだけで、ここに連れてきたわけ?

まさか…

危ない人?

ゴクリと息を飲みながら。

チラリと男の横顔を見上げた。

どうやって逃げよう?

考えている時間もなくて。

連れてこられたのはワンルームの部屋だった。

「ナニ?この家!!」

部屋の中に入って、びっくりするあたし。

だって、ワンルームなのに廊下と部屋をさえぎるドアを開けると、正面に大きな窓があって。

カーテンを開けると夜景が目に飛込んでくる。

それにカウンターキッチン。

ソファとベッドとテレビと…。

家具が少ないから広く感じるのかもしれないけど、明らかに広いってすぐに分かる。

ボーゼンと立ちつくしながら部屋を見渡す。

「よく安月給でこんな部屋に住めるね。」

ボソッと出た言葉は、そんなイヤミしかなかった。

「支給品だ。」

怒ることもなく軽く答えた。

「えっ?支給品ってなに?」

聞き間違い?

そう思ったのに。

「そう…。」

それ以上を口にしなくなった。

「何の支給品?どうせ、大学とか行っている時に、ホストとかやって貢がせたんでしょ?」

ハイテンションで、夜景の見える窓にピッタリと張り付いている。

「そんなんじゃないよ…寮みたいなもんだ。それより、お前じゃなくて警察のお兄さんと呼びなさい。」

あたしの頭にポンとタオルを置いた。

「お兄さんじゃなくて、オジサンでしょ?ミエミエのウソにダマされる刑事なんて聞いたことないし。」

ニヤッと笑うと、頭上のタオルをつかみながら、男の顔をマジマジと見ている。