「……うん。」

トクンッ…
トクンッ…

忘れなきゃいけない感情が、小さく脈を打って溢れ出てくる。

グイッ!!

力強く尚吾があたしの腕を引っ張った。

トクン…。
トクン…。

久しぶりに抱きしめられた尚吾の腕の中の鼓動は、あたしと同じ音がした。

まるで、尚吾も忘れなきゃいけない感情を溢れ出させているかのようで。

不謹慎にも嬉しかった。

付き合わないって決めたはずの1年前。

無理矢理ミュウと尚吾をくっつけたのに…。

懐かしい匂い。

忘れられない体温。

鼓動の音ひとつひとつが嬉しくて仕方ない。

いつの間にか、自分でもしっかりと力強く尚吾に抱きついている。

「なぁ、もしかして兄ちゃんの事を思い出していたんだろ?」

「えっ?」

言葉と同時に体がピクリと反応した。

「それ以外、唯が不安がるなんて事はないんだし。」

「………うん。チョットだけね。」

つぶやくように答えた。

「大丈夫。そばにいるから。」

耳元にかかった優しいささやきが。

どこか安心をくれた。

それなのに。

ゆっくりと閉じたまぶたの中には。

あのバカ刑事の顔が不思議にも浮かんで消えなかった。