初めて会った日から、走馬灯のように頭の中で次々に思い出す。
懐かしくて、温かい思い出ばかり。
自然と涙がこぼれた。
霧生くんがいなくなった時、ずっとそばにいて笑わせてくれた。
真冬に裸足でワンピース一枚で脱走したこと。
あの時、初めて尚吾に対して恋愛感情が芽生えて。
…尚吾を失いたくない。
強く、強く心の芯から思った。
ギュっと、膝の上で両手を握り締めて真っすぐに尚吾を見た。
「あたし、尚吾が大好きだよ。」
「あぁ、知っている。だから泣くなよ。」
そう言って照れ笑いを浮かべた。
だけどあたしは、真剣な顔をして目をそらさない。
「だから、あたしは尚吾とは付き合えない。」
ハッキリ言った。
「…意味わかんねぇ。」
ビックリして固まった。
「好きだから、選べないの。」
真剣な目からは、涙が止まらない。
好きだから失いたくなくて。
好きだから、幸せになって欲しくて。
いつかは、お兄ちゃんに見つかるかもしれない。
尚吾を守る為には、これしか方法がない。
本当は、離れたくなんかない。
ずっと、そばにいて欲しいのは尚吾なのに…。
それでも現実を考えれば、あたしと一緒にいたら不幸になるのは目に見えている。
ここで尚吾を選ばない事が、あたしの愛の証拠で。
これしか尚吾を守る手段が思いつかない。
それが、幸せになれるって事だから。
選ばない勇気も必要なんだって…。
「オレには、意味がわかんねぇ。」
イラついている空気が体に巻きついて重たい。
「尚吾があたしを守ってくれるように、あたしも尚吾を守りたいから。」
「何から守るんだよ!?」
「全てから…これ以上、大事な人を失いたくなんかない。」
「オレは簡単に死なねぇし。」
「……あたしは、何かあるたびに不安になる。今日だって、お兄ちゃんが尚吾に何かしたのかって不安で仕方なかった…あたしは、泣き虫で臆病者だから。」
「確かに、泣き虫で臆病者だな。」
呆れたような口調だけど、落ちてくる涙を優しくぬぐってくれる。