それなのに、お兄ちゃんは予想とは裏腹に、何をするわけでもなく何を言うわけでもなかった。
そのまま、どこかに出かけちゃったみたい。
夜には帰ってきたけど、特に変化はなかった。
今日は来ないんだ。
少しの安心感がいつの間にか眠りにつかせていた。
ぼんやり目が覚めたのが、夜中の1時を回っていた。
なんとなく部屋から出て階段を降りていくと、お兄ちゃんの部屋の明かりだけがついている。
恐る恐るドアのすき間からのぞいて見ると、普通に勉強しているだけ。
「紗羽だろ。どうした?」
突然の問いかけにびっくりした。
どうしてのぞいていたのが分かったの?
お兄ちゃんがゆっくりドアを開けた。
操られているみたいに、体が勝手に部屋に入ってしまう。
何かに引っ張られているような感覚。
足が勝手に動いてしまう。
心臓はバクバクと脈打っている。
ジンワリと手には汗がにじんでいる。
「こんな時間に寝られないのか?」
まるで、夢でも見ているかのよう。
昔の優しいお兄ちゃんがここにいる。
今までの事が悪夢でしかなかったかのよう。
どうして急に別人みたいに変わっちゃったの?
「降りてきたら…電気ついていたから。」
ゆっくりと唇を動かした。
「心配させちゃったかな?ちょっと調べ物していただけだから。」
昔のような優しい微笑みを向けてくれた。
それなのに、カラダからは力が抜けない。
胸の前でギュッと手を握りしめて。
「あっ…邪魔してごめん。」
急いで部屋を出る理由を口走った。
「大丈夫だよ。」
優しく髪を撫でた。
「お兄ちゃん……なんで怒らないの?」
怖かった。
尚吾達に何かが起こってしまっていたらって。
遠まわしにでも尚吾達の無事を確認したかっただけ。
だから、早くこの部屋から出て行きたいのに聞いてしまった。
「怒る意味が分からないよ。紗羽は、お兄ちゃんが嫌いでいなくなったワケじゃないだろ?」
そう言うお兄ちゃんの顔を見た時、全身が恐怖に凍りついた。
…目が笑ってない。
「これ以上お邪魔しちゃ悪いから、もう寝るね。」
慌てて部屋を出ようとした途端、バタンと後ろからお兄ちゃんがドアを閉めた。
「久し振りに帰って来たのに、そのまま寝ちゃうんだ。」
怖くて振り返れない。
「だって…調べ物の邪魔をしちゃ悪いから。」
多分…声は震えている。
「いろいろ話したいから、気にすることないよ。」
お兄ちゃんの声が耳にかかる。
冷たく凍りついた電流が、ゾクリと背筋を走り抜ける。



