だけど駅についても、秀からは返事がこなかった。
携帯を握り締めたまま、トボトボとあてもなく歩いた。
頭はボーっとして、何も考えられない。
それなのに、気付くと尚吾のいるビルに来ていた。
自分でも、どうしてここに来たか分らない。
きっと、ここにくれば誰かがいるのが分っていたから。
本能的にここに来ちゃったんだ。
フロアのドアを開けると、尚吾が1人ビックリした顔であたしを見た。
「どうしたんだよ?…その顔。」
慌てて駆け寄ってきた。
「うあぁぁぁぁっぁぁっぁぁん!!!!!!」
大きな声をあげながらその場に泣き崩れた。
尚吾の顔を見た途端、精一杯張り詰めていた糸が切れた。
本当は、今の辛い気持ちを、誰かに聞いてほしかった。
誰かに温めて抱きしめて欲しかった。
床に座り込んで大泣きするあたしを、尚吾は何も言わずに抱きしめてくれた。
しばらく泣くだけ泣いた。
尚吾の胸の中は、思ったより温かくて。
自分でも、いつの間にか尚吾に抱きついていた。
「大丈夫か?何があったんだよ!?」
泣き止んだあたしの顔を、心配そうにのぞき込んだ。
「………探してい…た人に…会ったの。」
泣き疲れて、ゆっくりしか話せない。
「秀から、チョットだけ聞いた。」
「…いなくならないって言ったのに………また、どこかに行っちゃった…確かめるのが怖くて、メールもできなくて。」
「そうか…。」
尚吾は、それ以上は言わなかった。
そっと抱き上げるとお姫様抱っこをして、あたしをソファに寝かせ、冷たいタオルを目の上に掛けてくれた。
「つめた~い!!」
氷のような冷たさに絶叫。
「かわいい顔が、ブッチャイクになっちゃうぞ。」
笑ってひざ枕をしてくれる。
普段なら尚吾に触られたくもないのに。
ひざ枕が気持ちよくて…。
そのまま横になっていた。
「ブッチャイクって何?」
何か話していたくて。
思わず尚吾に聞いてしまった。



