あのまま霧生くんは帰ってこなかった。
霧生くんが寝ていたベッドの中身は、空っぽのまま冷たくなっている。
泣きつかれて気だるい体を起こすと、鏡を見なくても自分で分るくらい目がボッコリと腫(は)れてる。
顔を洗って着替えるともう一度、部屋の中を確認して。
何かの間違いだって思いたかった。
だけど、ハッキリとベッドには包丁が突き刺さっている。
一体、何が起こったの?
強盗?
じゃあ、霧生くんはどこに行ったの?
少しでも状況を理解したくて。
何か手がかりとか。
あたしが理解できるようなモノがあるんじゃないかって。
部屋の中を見回した。
何も変わったことはないけど。
昨日は暗くて気づかなかった部屋の中。
カーテンのすき間からベランダの鉢植えが見えて。
慌ててベランダに出た。
やっぱり。
この鉢植え。
霧生くんのアパートにあった鉢植えだ。
そこには、枯れることなくひまわりが一輪咲いていた。
あたしの心とは正反対に。
大きく強くまっすぐに。
太陽を求めるように元気にひまわりは咲いている。
どうして?
昨日のは夢だったの?
この鉢植え。
霧生くんが大事にしていたのが嬉しくて。
昨日のことは、夢だったんだって。
まだ、あたしは霧生くんを思っていていいの?
また涙があふれて止まらない。
ギュッと鉢植えを抱きしめて。
その場にうずくまった。



