「本当に、好きとかじゃなくて。ただ…。」
霧生くんの事をなんて説明していいか分からない。
「忘れられない人がいるって事?」
ポツリと秀がつぶやいた。
その言葉が一番ピンと当てはまる。
「そんな感じかな?」
「腑に落ちない言い方だね。」
「…死んじゃったかもしれないんだ…急にいなくなっちゃって。」
ぎゅっと膝の手に力が入る。
うつむいたまま言葉が出ない。
「名前とか書いて。」
ベッドの横に置いてあったペンとメモを差し出しながら、ニッコリ笑ってポンッと肩を叩いた。
「なに?」
びっくりしながら顔を上げた。
「その人の名前とか、どこに住んでたとかさぁ…。」
「なんで?」
「尚吾がこのままじゃ可哀想だから。これは、オレが尚吾の為に動きたいからさ。お礼とは別件だから。」
ペンとメモを手に取ると、しばらく手に取ったメモを見つめていた。
だって霧生くんを調べるって事は、あたしの事もバレるって事でしょ?
そんなのダメだよ!!
「…ねえ、調べてくれるのは嬉しいけど…どこまで調べるつもり?」
恐る恐る聞いてみた。
秀はあたしの話し方に何かを悟ったらしく
「大丈夫。居場所だけ探すだけだから。今日の紗羽ちゃんみたいにね。」
ニッコリと笑ってくれた。
その笑顔に安心感があって。
秀を信用してみようと思った。
万が一にも過去がバレてしまっても、また逃げればいいだけの話し。
もし、これで霧生くんが万が一にも生きていてくれて、見つかったらそれで嬉しい。
でも、今のあたしに一番必要なモノがあるのに…。



