「…蒔宮?」
お兄さんは何かを思い出したかのように、大きく目を見開いた。
「あたしが…いけなかった…ん…」
さっきよりも速く。
大粒の涙はこぼれ落ちて行く。
「どうして…どうしてここに?」
眉をゆがませながら。
口元を震わせて。
ガタッ!!
お兄さんが勢い良く立ち上がった。
「霧生くんと約束したから…冬槻先生と約束したから…」
お兄さんの答えになんかなっていない。
あたしだって、どうしてここにいるかも分からないし。
この状況で、考える思考力もない。
ただ…思い出すのは、霧生くんと冬槻先生と。
一緒に食べようって約束した、ハーゲンダッツのことだけだった。
「アンタのせいで、楓姉ちゃんは…」
怒りで震える体。
ギュッと手を握りしめて。
立ち上がって出て行くことも出来なく、お兄さんの足元で涙を流すあたしを見おろした。
「ごめんなさい。」
「どんなに謝ってもらっても、もう、何も元には戻らないんだよ!!」
罵声のように大きな声で怒鳴った。
そんなの。
あたしだって、分かっている。
だけど、これしかできなくて。
きっと、この人が霧生くんだとしても。
同じことだったと思うから。
あたしは…
霧生くんにしようと思ったこと。
きっと、霧生くんの代わりに、このお兄さんに会ったんだって思えたから。
「…ごめんなさい。」
ただ、ただ謝るしかできない。
急に体がフワッと浮いたかと思うと
ドンッ!!!!!
ものすごい音と共に、背中に強烈な痛みが走った。