薄暗い路地からヌウッと腕が出てきたかと思ったら、あたしの口を塞ぐかのように力強く引きずり込まれた。
一瞬の出来事で、自分に何が起こったか理解できなかった。
むせるようなホコリとカビのような匂い。
少しでも暴れれば、壁にぶつかり腕や足が擦(す)れる。
「…思った以上に、かわいいじゃん。」
ボソッと男のつぶやきと、荒い呼吸が耳にかかる。
男の手がスカートの中に乱暴に入ってくる。
力を入れ体をねじるように、男の指を防ごうとする。
それでも男の動きは止まらない。
抵抗したいのに、路地裏が狭すぎて思うように身動き取れない。
声を上げたとしても、ここじゃ誰も助けてはくれない。
この異常な光景が物語っている。
ここでは、こんなのはアリなんだって。
通りすがりの人から見たら。
さっきの路地裏の女の子のように。
お金で買われているんだって。
そう思われるだけ。
諦めにも似た感情が芽生えて。
全身から力が抜けていく。
もう、どうにでもなっちゃえばいい。
元々、汚れたカラダ。
これ以上、何で汚れても大して変わらない。
だったら、抵抗してすり傷作って痛い思いするなら。
こんな男に汚いカラダを開いてやるまで。
それに命さえ助かれば、霧生くんに会う希望はあるんだし。
あたしは、霧生くんに会えればそれでいい。
霧生くん…
ギュッと強く、強く目を閉じて覚悟を決めると。
完全に抵抗をやめた。
それなのに。



