お兄ちゃんに言われて、逃げないか監視しているんだ。

それだけじゃなく、部屋のドアには監視カメラまでついていて。

多分、お兄ちゃんの部屋のパソコンで録画しているんだと思う。

あたしに許された自由はひとつ。

家出中の尚吾達の事を思い出して、現実逃避することだけ。

あんなに嫌いだったのに、今じゃ楽しかったなんて思っちゃう。

夜になれば、お兄ちゃんがやってくる。

「なあ、紗羽。このワンピース、似合うと思って思わず衝動買いしちゃったよ。」

柔らかなほほ笑みを浮かべながら。

薄い水色のワンピースを紙袋から出して、ベッドに腰を掛けているあたしの目の前に広げた。

きっと、昔だったら嬉しかった。

お兄ちゃんに抱きついて、飛び跳ねながら喜んでいたと思う。

でも…今は視線をうつむけたまま。

「あ…ありがとう。」

小さな声は微かに震えて。

笑顔さえうまく作れない。

「着てみるか?」

そっと目の前に差し出された手。

その手を取らなきゃいけないのに。

細く震えて動かない。

この手を取るのが怖い。

この手を取ってしまえば、あたしはお兄ちゃんの全てを…

今までの行動を許してしまうことになってしまいそうで。

亀井くんや先輩だけじゃない。

霧生くんや冬槻先生のことも。

全てなかったことにしてしまいそう。

それなのに。