桜ノ宮署に着くと、対策室まで作られていた。

本庁のお偉いさん方がお兄ちゃんに

「よかったな!!」

なんて笑顔で肩を叩いている。

このお偉いさん達、うちの病院よく来るし。

子供がお兄ちゃんの友達だった気が…。

そう言うことね。

お兄ちゃんはあたしの顔を見るなり、駆け寄って力いっぱい抱きしめた。

「無事でよかった。」

泣いているお兄ちゃん。

……気分が悪い。

お兄ちゃんに触られるだけじゃない。

耳元で聞こえるお兄ちゃんの呼吸音。

自分の呼吸の仕方も分らないくらい。

目がグルグルと回って。

頭がボーっとなってくる。

…酸欠?

こんな事で、家になんか帰りたくない。

お兄ちゃんの悪巧(わるだく)みを、全部ぶちまけてやろうと思った。

それが、あたしなりの最後の悪あがきだ。

なのに。

「…あ…あたし…、誘拐……されて…ま…せん。」

朦朧とする意識。

視界がゆがんで、グニャグニャと揺らめいている。

「きっと最近、いろいろ悲しい事が続いていたから。旅行したかったんだろ?でも急にいなくなったから、誘拐されたかと心配になったんだぞ。」

兄ちゃん…それも台本通り?

薄れていく意識。

-----呼吸ができない。

倒れる寸前だった。

ハッキリと耳元で

「捕まえた。」

お兄ちゃんがゆるめた口元でささやいた。

背筋が凍りつくのを感じながら、お兄ちゃんの腕の中で意識はなくなっていた。